CD Review《CD評》 | |
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下記の評は、チェコ・ラジオのVltava(ヴルタバ=モルドウ)局(芸術専門のラジオ局)で2週間毎に定期的に放送される特別
評論番組に現れたもの。 評論の著者はMr.Heider,Ph.d.(博士)というVltava局の番組担当者。番組では毎回1〜2の新譜を取り上げ、CDの聴きどころも流している。そこではCDの録音にまつわる制作背景や個々のアーティストの演奏の評価を語り、番組の終わりにCDの表彰のかたちでクオリティーに応じて1〜5の段階のclefを与えるこのCDは最高の5のclefを受けた。 取り上げられたCDの評論はクラシック音楽専門の権威あるラジオ番組からの評論として印刷物として出版される。 このCDを試聴することはすばらしい経験であり喜びである。この録音は独奏者としてヴァイオリンのノボトニー、ピアノの伊藤ルミ、チェロのカニュカ、そしてオーケストラはビエロフラーヴェク指揮のプラハ室内管弦楽団による。まずベートーベンを聴いて、三人のそれぞれの独奏者たちが織りなす音楽には本当に生き生きとした会話があり、すばらしい協調関係にあることに感銘を受けた。 ソリストとしてまた室内楽奏者として活躍している日本のピアニスト伊藤ルミは、いままでとりわけヴァイオリンのノボトニーやチェロのカニュカといったチェコのトップソリストたちと共演を続けてきた。この録音では彼女が日本においてチェコの室内楽奏者や作品を紹介するにために多大の貢献をしてきたということを示すよい機会になっている。 彼女の古典派音楽にたいする演奏は実に確信に満ちたもので、室内楽の分野で幾多の経験を積み重ねてきていることを認識させる。洗練されたタッチ、センスあるピアノの音の美しさ、非常に適切なダイナミック・レンジ、音楽の全体の流れだけでなく他の奏者に対する気配り---伊藤ルミの演奏芸術の個性的な姿勢をそこに見出すことができる。このことのために、ノボトニーとカニュカとが加わる「トリオ」部分でも高貴でで輝かしいハーモニーを導き出している。 彼らはハ長調で書かれた(第1楽章と第3楽章での)デリカシーをみごとにとらえている--それは弦楽器だけで求めうる爽快さとは異なるものである。ソリストとオーケストラとの完璧な演奏とすばらしい連係がバランスのとれた音楽の全体像に結びついている。このことは特にトリプルコンチェルトの場合はとても難しいことではあるが・・リヒテル、オイストラフ、ロストロポーヴィッチ、カラヤンによるあの歴史的な銘盤以来久方ぶりに、演奏上極めて骨の折れるこの傑作にとっての注目すべき新録音が誕生した。 このCDの2曲目はノボトニーのヴァイオリン独奏によるブラームスのヴァイオリン協奏曲である。彼はチェコのヴァイオリンの最高峰の一人で、彼の活動からして世界的なソリストのランクに位 置づけられる。彼は非常に広いレパートリーを誇っており、例えばヴァイオリン協奏曲では50曲を数える。また、ヴァイオリンの通 例曲以外でも世にあまり知られていない現代の作品--コルンゴルド、バーバー、ロツッアといった--の演奏でも貢献している。 この録音を聴くとすぐに精神的な充実感と解釈の深さに裏付けられた非常に美しい音色に感銘を受ける。技術的にもブラームスの最高の演奏として賞賛に値する。ノボトニーのヴィルトゥオーゾ性はそれを誇示することを目的とするものではなく、多元的な性格をもつブラームスの音楽のなかで最も大切な内面 的な部分を表現する手段として駆使されている。オーケストラだけでなくソリストのロマンチックな色彩 感溢れる表現力はすばらしく全曲は大きな雄大さに包含されている。このCDは選曲、演奏者、録音技術とも最高の要素を備えている。この二つの協奏曲の録音は世界的なレベルで高い評価を受けるに値する。 (2005.02.14 増田育三 訳) |
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